スリング内での心肺停止、2か月女児

事 例 年齢:2か月27日 性:女児
傷害の種類 窒息
原因対象物 スリング
臨床診断名 心肺停止
発生場所 外出先の電車内

<発生状況>

母親がスリングを使用しながら,家族(父親と子ども2人)と帰宅途中であった.スリングの使用については,上の兄弟に使用していたが,本児に対しての使用は当日が初めてであった.一枚布のスリングで,使用法としては児の顔を含め全身を覆うような使い方で,外からは児の顔が見えない状態であった.スリングが市販のものか,自作のものかは不明である.

発生時刻 2009年 10月 18日 午後4時 50分頃

家族で遊びに行き,帰りの電車内で母親にスリングで抱っこされていた.スリングは,顔を含めて全身を包み込むように使用していた.16時20分頃,スリング内で児が入眠しているのを母親が確認した.16時45分に電車を降りた.16時50分頃,体動がなくなり,母親は児が寝たと認識した(呼吸の有無は確認しなかった).17時過ぎ,帰宅しスリングから児を降ろしたところ,ぐったりしており呼吸をしていなかった.

<治療経過と生まれてからの情報>

17時09分に救急隊を要請し,救急隊からはBy Stander CPRを指示された.17時17分,救急隊が現場に到着した時のモニター上,心静止であった.心肺蘇生を継続されながら当院救命救急センターに搬送された.来院時,心電図モニター上平坦,体温は32.9℃,両側瞳孔散大,対光反射は認められなかった.体重は5,340gで,理学所見上,体表に皮下出血ややけどの跡はなく,首に圧迫痕は認められなかった.来院後の各種処置によって一時的に心拍は再開したが,翌午前1時35分に死亡した.生まれてからの情報:妊娠分娩歴に異常はなく,在胎41週,出生体重は不明.1か月健診はとくに問題なく,これまでに呼吸状態の異常はみられていない.母乳栄養である.家族構成では,本児は第3子で,上に7歳と2歳の兄たちがいる.家族歴に筋疾患はない.家族の喫煙状況は不明である.今回のエピソードが起こる1~ 2週間前のあいだに,児には喘鳴,嘔吐などはなく,家族員にもかぜ症候群の症状はみられていない.

【こどもの生活環境改善委員会からのコメント】

1.これまで,スリングからの転落や,スリング使用による股関節脱臼の危険性が指摘されてきたが,わが国では死亡例の報告はなかった.

2.2010 年3 月12 日,アメリカ消費者製品安全委員会(CPSC)は4 か月未満の乳児にスリングを使う場合の窒息の危険性について警告情報を発表した.この報告によると,過去20 年間にスリングによる乳児死亡は14 件で,このうち4 か月未満が12 件であった(1).また同日,カナダ保健省(Health Canada)もスリング等を使用する際の転落や窒息事故に関して注意喚起を行った(2).

3.国民生活センターは2010 年3 月26 日,国内でも過去10 年間にスリングからの転落による乳児の頭蓋内損傷など64 件の事故報告があったとして注意を呼びかけた.2008 年度は13 件,2005 年度は9 件となっており,月齢では3 か月から8 か月の児に多く,傷害としては「打撲傷,挫傷」がほとんどを占めていた.

4.わが国ではスリングの解説本なども出版されており,育児用品として普及率が高い製品である.今回の事例から,子どもの顔がつねに見えている状態で使用することを周知徹底させる必要がある.カナダ保健省は危険な使用法を写真で紹介している(2).

5.CPSC の報告では,未熟児,双子,虚弱体質や低体重の乳児がハイリスクとされ,強制的な規格が必要な幼児用耐久財のリストにスリングを追加した.死亡原因として,スリング内での頭頸部屈曲による上気道閉塞,体部前屈による胸郭拡張制限,体温調節異常などが考えられているが,死因を解明する必要がある.

6.本事例はSIDS(乳児突然死症候群) との鑑別が必要であるが,現時点では,このような事例があったという事実を記録しておくこととした.